美しすぎるオフロードパス!〜ラグビー日本「ONE TEAM」の戦い〜

日々のこと

ラグビーワールドカップは、日本の4連勝で最高に盛り上がっています。(10月16日現在)

戦前の予想ではプールAの中ではアイルランド、スコットランドに次いで3番手。前回南アフリカに勝ったとはいえ、ジャイアントキリングの起きにくいこのスポーツでベスト8に進むのは難しいとされていました。

しかしこの快進撃、地元の利、日程の利はもちろんありますが、フロックにも思えません。

おそらく試合を見ている人たちすべてが感じることでしょうが、今の日本チームの戦い方は、弱者がなんとか相手の隙をついていこうとする奇襲戦法でも何でもなく、相手をリスペクトしたうえでの真っ向勝負です。

いやもっと言えば、今までのラグビーにはなかった新しいスタイルがある、これからは日本のラグビーがスタンダードになる、そんな予感さえするのです。

かつて体格的に劣って絶対的不利と言われていたスクラムやモールで負けない、フォワード陣の強さ。

低い姿勢を取り続けられる屈強な身体、組み方、何より絶対前に出るという強い精神力。

今までの日本ではあり得なかったFWの頑張りが、バックスの美しいトライを支えているのは間違いありません。

体重差があっても、体格で劣っても、それだけではない。それを跳ね除ける強さは、相手チームにとって脅威のはずです。

アイルランド、サモア、スコットランド。みな自信を持っているスクラムで日本に押し込まれる。ゲーム運びにおいて、まずこれがプレッシャーになります。

そのFW陣の頑張りがあって、あのパス回しです。

正直、アイルランドやスコットランドに勝つイメージはあまりありませんでしたが、もし活路を見出すとすれば、キックの多用とその正確さ、さらには運。そこにしかないと思っていたのですが、特にスコットランド戦はまったく違いました。

まさに王道のパス回し。そしてタックルされても簡単に潰れない、すぐにFWが寄って来てボールを奪われない。前に進むのはほんの僅かでも、そこから何度も何度もパスを出して繋いでいく。

観ているこちらまで力が入ります。ボールを落とさないで、そして反則をしないでくれ、と祈りながら。

そしていくつもの感動的なトライを、ゴールを見せてもらいました。

目次

誰が何と言おうと素晴らしすぎた、あのプレー。

スコットランド戦。

最初に7点奪われたものの、すぐに福岡-松島のWスピードスターのトライで追いつきます。このトライも、福岡が倒されながら松島へのパスを成功させたものでした。

しかし前半21分、右プロップの具が負傷で涙の交代。それでもまだプレーを続けたいというような、あの無念の表情が、彼のこのゲームに賭ける思いをストレートに伝えていました。

その4分後、あの伝説になるべきトライは生まれます。

堀江からムーア、トゥポウ、そして稲垣。3連続のオフロードパス。逆転のトライ。

プレーしている15人だけでなく、応援するすべての人の思いがこもっていたようなトライ。

タックルを受けながらのオフロードパスには、いろんな意味でリスクが伴います。

受け身の態勢を取ることもできない恐怖とともに、そこに仲間がいなければ、相手が迫っていればボールを奪われる。

しかし、彼らは「そこにいた」のです。まるで前の選手がタックルを受けることを、そして必ずその時にパスを出すはずだと予感していたかのように、前へ前へ、走り続けていたのです。

何より、最後のパスを受けたのは、負傷退場した具と同じポジション、プロップの稲垣です。ゴールライン目前でトゥポウが倒れかかろうとしたまさにその瞬間、「なぜか」彼はトゥポウのすぐそばに。

福岡や松島のような華麗さは全くない、絶対ボールを落とすまいと両手で大事そうに抱えたままの泥臭いトライ。でもあの厳つい笑わない顔がとんでもなくカッコよく見えました。

それでも勝負は最後まで分からない

その後、後半に28-7となった時にはほぼ勝利を手中にしたと思いましたが、そこからのスコットランドの気迫もものすごいものでした。

28-14、28-21と立て続けに得点を奪われ、まだ残り25分あります。

いや、頭の中ではまだ7点差ある、たとえ追いつかれても、さらに1トライ1ゴールを決められたとしても、7点差以内なら負けても決勝トーナメントには進める。そう冷静に考えようともしたのですが、それはあくまで客観的な数字の問題。今目の前で戦っている男たちにはそんな計算はあるはずもありません。

現にテレビで観ている方も、もう余裕が全くない、それほどスコットランドに押される展開が続いていました。

それでも日本が耐えきったのは、最後まで緩まない思いがあったからでしょう。

「引き分け」ではダメ。勝つことでしか、次に進めない。

ボールを奪い返し、観客のカウントダウンがはじまり、タッチキックを蹴った瞬間、死闘は終わりました。

物語はまだ続く

野球、サッカー、オリンピック・・・今まで、いろんなスポーツの名場面に立ち会うことができました。が、そのどれとも違う感動がこのトライにはありました。

彼らは、このワールドカップまでいろんなものを犠牲にしてきた、と口々に言っていました。

すべてチームのため、日本の勝利のため、「ワンチーム」としての誇りのため。

台風で開催が危ぶまれたこの試合に先立ち、選手は被災された方々に元気を取り戻してもらえれば、と言っていました。

決勝トーナメント、南アフリカ戦は今週日曜日。直前の親善試合で大敗しているとはいえ、あまり参考にはなりません。ぜひ勝ってあと2試合観たい、と誰もが思っていることでしょう。

いや、もうこうなると勝ち負けではないかもしれません。

キックオフからノーサイドまでの80数分、息も継げないほどの試合をまた見せてくれればそれでいい。

願わくは、あの美しいパスを、もう一度。

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