人が変わるとき

ココロ

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最後の試合

高校生を見てると、急激な変化に気づく時があります。

それはやはり何かしらの試練やプレッシャーを感じる場面にあった時が多いです。

それを乗り越えたら自信を持てるし、たとえそこで挫折したとしても、自分や他者のことを考えるきっかけになるんですね。

体罰は当然ダメですが、今は厳しい言葉掛けもなかなか難しい雰囲気があります。

そうすると、部活動も勝つことより楽しいこと、指導よりも主体性を重んじる傾向が強まります。

それはそれでいいとしても、一方で成長の機会を減らしている気もするのです。

そんな中、この5月の大会で引退する3年生は、この1か月で急に変わります。

最後の試合に賭ける気持ちが前面に出て、声も出て足も動くようになります。

諦めずに最後までボールを追う姿に心を揺さぶられます。それを見た1、2年生も刺激を受けてプレーが変わります。

指導方法というより、そうした機会があるか、作れるかどうかが重要なのではないでしょうか。

明後日の試合が3年生にとっては最後かもしれません。果たしてどんなドラマを見せてくれるのか…楽しみです。

3年生にとって、最後になるかもしれない大会の前日。ベンチ入りは8人、校内戦でその枠を争いました。

いつも以上の気持ちが入った試合が続きます。

結果、5人の3年生のうち2人がベンチ入りをはずれることになりました。

試合に出る6人の内訳は1年生2人、2年生3人、そして3年生は1人。2人は補欠です。

校内戦のあと、ベンチに入れない2人の3年生と話しました。2人とも少し寂しそうな、けれど結果に納得もし、「大丈夫です」と清々しく語ってくれました。

そして試合当日。

団体戦はダブルス3試合のうち2勝すれば勝利です。予想どおりの大接戦になり、3年と1年のペアが最初の試合で惜しくも敗退します。

あとがない第2試合は1年と2年のペアですが、最初に1ゲーム取られる苦しい展開です。インターバルでベンチに戻った2年生が、緊張の解けない面持ちでつぶやくように言います。

「ここで負けるわけにはいかない…」

その気持ちは1年生ももちろん同じです。実は校内戦の始まる前、彼女たちは「私たち、3年の先輩に出てほしいです。」と伝えに来ていました。

最後の試合なのに自分たちが出て、負けたら申し訳ない、中学の時もそうだったんですと。

その気持ちを受け止めつつも、3年生は自分が試合に出ること以上に、チームのことを考えているはず、と試合に臨ませていました。

そしてなんとか第2試合に勝ち、1-1で迎えた第3試合は2年生ペア。一進一退の息詰まる試合は、最後に相手のボールがサイドアウトになって終了。

声をからして応援を続けていた全員が喜びを爆発させます。

その次の試合も勝ち、40年ぶり?のベスト8。

失敗や挫折、対人関係の難しさ…さまざまなドラマが、成長の糧になっていくんですね。

勝利のあとの葛藤

大会が終わり、今日から練習再開です。でも3年生たちは思わぬ葛藤に悩むことになりました。

この大会で引退と考えていたのに、ベスト8に入ったことによって来月の大会への出場権を得たからです。

これからは受験に向かう大事な時期。定期試験も学園祭もあります。そんな中でもう一度部活に集中することができるのか。

団体戦に自分たちの力が必要なのか。

自分たちが残ることが後輩のためになるのか。

自己満足でなく、何がいちばんいい選択なのかを考え、悩み抜きました。

5人それぞれの思いがあり、話し合いはなかなか終わりません。

涙を流しながら自分の気持ちを伝えます。

そして今日の練習前、後輩たちに向かって言いました。

自分たちは全員残って、1、2年生と正々堂々と勝負して、試合に出ても出られなくても、最後まで部活をやり切ると。

それを聞いた後輩たちは、何かほっとしたような、嬉しいような表情で拍手します。

勝つことも楽しいことも大事な要素ですが、こういうジレンマと、それを話し合って乗り越えていく、その過程もまた人を成長させてくれますね。

勝つことよりも「想い」

今日は3年生にとって最後の試合。

昨日の雨で1日順延になり、予定していた学園祭の準備ができないと心配する生徒もいますが、ここは試合優先です。

先月の試合でベスト8に入った学校が、2つのリーグに分かれて試合をする形式で、8人のベンチ入りメンバーが1試合につき3ペア、最低3試合を行います。

現在3年生が5人。先月の試合では、そのうち1人だけがレギュラーで、2人は控え、あと2人はベンチ外でした。

実は3日前の木曜の練習後、3年生5名だけを残して話をしてありました。

今日の試合に際しては、メンバーを自分たちで相談して決めてほしいと。

先月の試合で引退するはずだったのが、後輩たちの活躍もあってベスト8に入り、ここまで約1ヶ月、引退の気持ちをリセットして練習してきました。

3年間、5人一緒に頑張ってきたのだから、最後は悔いなく終われるよう、自分たちでメンバーも決めて、出た人たちが気持ちを込めてプレーできればそれでいいと。

出場する8校中、インターハイに行けるのは優勝した学校のみ。何が起こるか分からないとはいえ、実力的に上位4校に勝つのは厳しい状況です。

練習メニューもほとんど自分たちで考え、自主的に活動してきて、それを見守るだけでしたから、とにかく悔いの残らないようにしてほしいと思いました。

そして当日の朝。メンバー表を見ると、3年生全員の名前があります。最後の試合、自分たちが出場する、という選択をしました。

それは単なる思い出づくりではなく、プレーすることで後輩たちに何かを残そうとする決意に思えますが、さてどうなるか。

ゲームが始まりました。

それなりにいいプレーはときどきありますが、ミスも多く、ボールがつながりません。このところの雨や学園祭準備で練習不足の影響もあるのか、ダブルフォルトや簡単なレシーブミスも。

気持ちが空回りしたようなゲームで最初の対戦0-3。2戦目も0-3。3戦目、初めて2年生のペアが出て1試合目に勝ち。でもそのあと3年生は0-4、0-4で敗退。

相手の打った最後のボールがラケットをすり抜けた時、彼女たちの3年間が終わりました。

競技である以上、勝つことがひとつの目標になるはずですが、ふだんの練習がすべてそこに向かっているわけではありません。

まずは楽しくテニスをしたい、という雰囲気の練習と、勝利を求められる試合とのギャップの大きさ。この最後の大会でも残念ながらそれを感じずにはいられませんでした。

試合後、近くの公園で最後のミーティング。1時間以上かけて、ひとりひとり思いを語ります。

結果のとおり、今日の試合で納得のいく終わり方ができたのか、といえばそうではないでしょう。でも彼女たちは、テニスそのものよりもっと大事なものを得たのかもしれません。

異年齢の人間関係をはじめ、続けることの意味、挫折と努力…部活をしてなければ知り得なかったさまざまなことを、この3年間で感じとったようです。

最後に部長が、後輩を含めた17人の仲間にそれぞれ書いてきた手紙を涙声で読み上げるというサプライズもあり、みんな目を拭うタオルを手離せない…

勝ちにもこだわってほしいけれど、こんな「想い」には勝てませんね^ ^

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