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漢文の授業で作者の意図をみんなで考えたらなかなか面白かったという話です。
南北に走る公道があった。土地は低くじめじめしていて、雨が降るとたくさんの水たまりができた。ここを通る人は不便だったので、道の西側にある田の中を踏んで通った。みんなそこを通るので数日もすると道ができてしまった。
田の持ち主は困って、十歩ごと道を遮り、数十もの土塀を作った。しかし通行人は土塀を避けてさらに西側を通り田を踏む範囲はさらに広くなった。そして数日後、また道ができてしまった。
手立てをなくした持ち主は田のほとりにうずくまり、わめいたり泣いたりして止めようとしたが、道を行く人が多いのをどうすることもできなかった。
ある人が忠告して言った、「土塀で遮断した所は、もはや役に立たない土地になっている。どうして土塀を倒して道を通れるようにしないのか。そうすればさらに西側に土塀を作ることをやめることができる。」と。
わたしは笑って言った、「もっとすばらしい方法がある。」
「土塀を築いていた土を公道に敷けば、道路は平坦になるでしょう。道路が平坦になれば、人々はみなその道を通るでしょう。そうすればまた道が西側にできることをやめさせられます。どうして土塀を作ることがありましょうか。」と。
数日たって道路は完成し、そうして田の中には一つの足跡もなくなった。
呻吟語(呂坤)
もとは中国、明の時代のお話です。センター試験まで100日を切って、そろそろ演習に本腰を入れることになり、教科書の文章を取り上げるのはこれが最後。2時間くらいで読めそうなこの作品を選びました。
いつものように音読し、グループで相談して話の大意をまとめたうえで、作者がこの話を書いた意図を考えてみました。
班ごとにB4の紙に記入して黒板に貼ります。10班ありますが、すべて違う答えに!
- 要はものの使いよう
- 使えなくなったものも工夫すれば使えるようになる
- 工夫しよう
- 着眼点を変えてみること
- 発想の転換
- 人の田んぼを勝手に歩くな
- 人が歩くと道になる
- 平らがいいね
- 原点回帰
- 自分のためではなくて人のために行動するべき
ちなみに教師向けの指導書に書いてある「正解?」は、
「問題解決には、その根本に目を向けることが大切であること。」
まあそりゃそうだ、って感じですよね。
そのことは伏せておいて、グループが書いたものを検討していきます。1班~5班はいい線ですね。でも「根本に目を向ける」ところまではいってないかな。
6班のはそのままだし、8班の「平らがいいね」は意図というよりスローガン。ドリカムの「晴れたらいいね」みたいな雰囲気も。
7班の「人が歩けば道になる」は、「魯迅の「故郷」のラスト「歩く人が多くなればそれが道になる」でしょうか。これはけっこう好みですが。
そうすると9班の「原点回帰」はかなり近いですね。「根本を考える」=「最初に戻る」ということで。
こんなところでまとめようと思ったのですが… 残った10班の答え、ふとどうなんだろうと。
最初は「正解」例との違いばかり見ていたのであまり気にしなかったのですが、よく考えたらこれ、「大正解」なのでは⁉︎
「利己」から「利他」へ
自分の田んぼが踏まれないように土塀を作るのはもっともです。誰だってそうしますよね。
でもそれがうまくいかなくて、「ある人」は、農地の一部を犠牲にして道にしてしまえばそれ以上の被害は防げるだろう?と現実的な妥協案を持ちかけます。
それに対して作者は、土塀を築いた土(これは農家がどこかから持ってきたものでしょう)を公道に敷けばいいと。
つまり、そうすれば道行く人も便利になる、労力はかかるけれど田んぼもすべて守られる、お互いにwin-winの関係だと。
「正解?」はものごとの根本を考えるべきという総論になっていますが、このエピソードをより実生活に近づけて考えれば、むしろこちらの方がふさわしい、そう思えてきました。
農家が自分のことばかり考えて、他人の侵入を許さないようにするという利己的な方法はまったく効果がなく、道を歩く人のために公道を整備する、という「利他」の行動が結果的にうまくいくという。
まさに「情けは人のためならず」ですね。
自由に考えて話し合ったからこそ出てきた答え
今、教育界は「アクティブ・ラーニング(主体的・対話的で深い学び)」が課題であり、どの授業や行事にもその視点が求められています。
「何が正解か」を求めるのではなく、「どのように学ぶか」という学び方の問題が重要になってきているのです。
今回の授業も、決して正解を出させようと思ったわけではありませんが、まあ似たようなものになるのだろうな、という予断はありました。
でも個人でなく数人で話したからこそ、この「利他」が大事、という答えが日の目を見たんだと思います。
ひと昔までの一斉授業、講義式授業なら絶対出てません。
「根本が大事」などという分かりきった教訓でまとめるより、こちらの方がよっぽど心に入るのではないかと思うのですが、いかがでしょうか。
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