「信頼」について~センター試験・評論文の問題より~

教育

5人の生徒の会話から

次に示すのは、この文章を読んだ五人の生徒が、「誠実さ」を話題にしている場面である。傍線部D「価値観が多元化した相対性の時代には、誠実さの基準も変わっていかざるをえないのです。」という本文の趣旨に最も近い発言を、次の①~⑤のうちから一つ選べ。

① 生徒A--現代では、様々な価値観が認められていて、絶対的に正しいとされる考え方なんて存在しないよね。でも、そんな時代だからこそ、自分の中に確固とした信念をもたなくてはいけないはず。他者に対して誠実にあろうとするときには、自分が信じる正しさを貫き通さないと、って思う。

② 生徒B--えっ、そう? 今の時代、自分の信念を貫き通せる人なんて、そんなにいないんじゃないかな。何が正しいか、よく分からない時代だし。状況に応じて態度やふるまいが変わるのも仕方がないよ。そういう意味で、キャラを演じ分けることも一つの誠実さだと思うんだけど。

③ 生徒C--たしかに、キャラを演じ分けることは大切になってくるだろうね。でも、いろんなキャラを演じているうちに、自分を見失ってしまう危険がある。だから、どんなときでも自分らしさを忘れないように意識すべきだと思う。他者よりも、まずは自分自身に対して誠実でなくっちゃ。

④ 生徒D--うーん、自分らしさって本当に必要なのかな? 外キャラの提示が当たり前になっている現代では、自分の意見や感情を前面に出すのは、むしろ不誠実な事だと見なされているよ。自分らしさを抑えて、キャラになりきることのほうが重要なのでは?

⑤ 生徒E--自分らしさにこだわるのも、こだわらないのも自由。それが「相対性の時代」ってことでしょ? キャラを演じてもいいし、演じなくてもいい。相手が何を考えているかなんて、誰にも分からないんだから、他者に対する誠実さそのものが成り立たない時代に来ているんだよ。

平成28年度センター試験本試験 第1問 問5選択肢

平成28年度のセンター試験、評論文は「キャラ化する/される子どもたち」(土井隆義)からの出題でした。

「キャラ」とか「リカちゃん人形」、「メイド・カフェ」「やおい」などというワードが含まれていたことでちょっとした話題になりました。

ちなみに本文のあとにはこれらの言葉に関する注釈がついていましたが、「ミニーマウス」「ハローキティ」「ミッフィー」の説明までありました。さすがにそこまでは、と思いましたが、必要ですかね。まあバランスかな。

それはともかく、この問5の正解は何番でしょう?

筆者の主張に最も近いものを選べ、と言うのですから、これは本文全体の読解がきちんとできているかを問う問題です。問題としてはよく考えられていますし、選択肢の紛れもありません。

正解は②なのですが・・・

この問5の類、前にはなかった新傾向の問題です。

それまでは問1が漢字、問2~5が傍線部の言い換えや理由を問うもの、最終問6が全体の内容を問うもの、という形が多かったと思います。

最近は問6に表現や構成・展開を問う問題が入ってきたことで、問5がこのように本文全体の趣旨に関わるもの、になってきました。ときどきこのH28年度のように、会話の形を取るものがあります。

正解に紛れはなくても、選択肢だけを見ると、AからEのどの生徒もそれなりに筋の通った発言をしていると思うのですが、どうでしょう。

何が言いたいかというと、今の授業では、こうした「対話」「話し合い」が中心になっているんです。

「何を学ぶか」だけでなく、「どのように学ぶか」であり、「何ができるようになるか」も問われます。

筆者の主張は②だとしても、それ以外の考えを出し合うことで自分や他者にフィードバックし、視野を広げる。教科書の文章から離れて、発展的に考えていく、ということでもあります。

誠実とは、「自分が信じる正しさを貫くこと」(生徒A)、「自分らしさを忘れないこと」(生徒C)、「自分らしさを抑えて、キャラになりきること」(生徒D)、「自分らしさにこだわるのも、こだわらないのも自由ということ」(生徒E)。

どれもひとつの意見ですよね。もし問題を離れて本当に討論してたら、正解なんてないわけです。

当然授業と入試問題は求めるものが違うわけですが。

唯一の正解以外は×になる

センターはマーク式ですから、正解以外はすべて×。国語は1問の配点が大きく、間違えた生徒は200点中の8点くらいを失います。

そういうシステムなのだから仕方ないです。が、記述式なら「部分点」があります。この黒か白か、オールオアナッシングの方式には長年やっていても違和感があります。

授業でやっていることと、試験で問われることがまったく同じでなければならないとも思いません。

けれど、こういうセンター試験・マーク式のジレンマを感じている身からすると、新テストの記述問題に反対する、「『公平・公正』ではっきり○×がつかない問題は絶対ダメ!」、という声もちょっとなあ、と感じてしまいます。

国語はセンター試験の中でももっとも差がつく、実力が発揮されない、バラツキがあるといわれる教科。ちょっと読み違えてマイナス30点とかよくあります。

取れていたはずなのにマークミスしていて、受かると思っていたA判定の志望大学に不合格だったなんてこともあります。

それも実力、といえばそれまでなのですが…

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