2020東京マラソン感想〜自分との対話〜

ランニング

「3強」と言われた大迫・設楽・井上それぞれの戦い。

コース、気象、そして厚底シューズという好条件に恵まれた東京マラソンは、大迫の日本新記録を始め、日本人選手の中で2時間6分台が2人、7分台が7人出るという高速レースになった。

前回のMGCで最初から飛ばした設楽悠太は、2週間前に走った「金栗記念熊日30キロロードレース」の疲労が抜けきっていないのか、自重したスタート。

第2集団でレースを進めたが、そのまま前に出ることもなく16位。それでも7分台で走ってまとめるところは流石だった。

そして今回の主役はもちろん大迫だが、その前に井上大仁の走りを抜きにすることはできない。

中盤まで第一集団、日本人トップで軽快に走り続け、大幅な記録更新も期待でききるのではと思わせてくれた。

思えばMGCでまさかの最下位で惨敗。その原因もつかめない状態で、不安のままこの東京マラソンに臨んだのではないかと思っていた。

しかし、応援してきてくれた人たちを二度と心配させたくない、と立ち上がってこの日を迎えていたのだ。

井上のラップは次の通りである。

5km 14:32

10km 14:40

15km 14:47

20km 14:44

25km 15:03

30km 15:37

35km 17:04

42.195km 8:25

RECORD 2:09:34

対して大迫は、

5km 14:33

10km 14:39

15km 14:49

20km 14:41

25km 14:50

30km 15:08

35km 14:56

40km 15:15

42.195km 6:38

RECORD 2:05:29

実はハーフの地点ではふたりの差は1秒。そこから23km地点を過ぎたところで大迫が遅れ、30km地点でその差が12秒ついていた。

距離にして70m近く離れていたわけで、この時点で井上の日本人トップを疑うものはなかったと思う。

しかし、やはりそこはマラソンの怖さである。いくら練習を積んでいても、前半のハイペースは必ず後半、30kmを過ぎたところでそのツケが回ってくる。

彼のフォアフット走法にマッチしていた厚底シューズでの軽快な走りも、このあたりから見られなくなり、次第に顔がゆがんでいく。

そして32km過ぎに大迫が追いつき、井上のつらそうな顔を見て前へ。

そのあと井上に、それを追う脚は残されていなかった。

しかしレース後、「きょうはやれることはやった。後悔はない。」という井上の言葉に私たちはうなづく。

MGCの惨敗からここまで戻ってきてくれたこと、大迫や設楽と違い、大学卒業後に力を伸ばしてきた「雑草魂」。

そして大迫の走りを「半端ない」と何度もたたえる姿勢、その挑戦があったからこそ大迫の日本新も光る。

東京でのオリンピックは消滅したが、まだまだ彼の走りを見ていきたい、とつくづく思う。

冷静と気迫の狭間で勝ち取った記録

MGCで3位に終わった悔しさをもって、ケニアに渡って練習を積んだのが大迫である。

合宿地であるケニアのイテンは標高2,400メートル。昨年の12月に米国から拠点を移し、この高地での厳しいトレーニングを自らに課した。

2時間5分50秒という、自分の日本記録を超える選手が出なければ東京オリンピックの出場権は得られる。

その可能性は低いから、大迫が代表選考レースに出る必要はないのではないか、という声もあった。

しかし、大迫はあえて、前回途中棄権したこの東京マラソンに出る道を選んだ。

おそらくオリンピックに出る「可能性」という点で考えてはいない。ただ自分の記録、自分自身を超える、そういう強い覚悟だったろう。

「守り」ではなく「攻め」の気持ちはそのままレースにも現れた。しかし、その裏で冷静さも忘れてはいなかった。

前回MGCで、周りを気にしすぎたことで結果的に3位に終わったことへの反省も生かしている。

第一集団で井上のあとを走ったのは、井上をマークすると言うより、自分自身のペースを超えないようについて行く感じだったという。

事実、ハーフを過ぎ、大迫は徐々に先頭集団から離れていく。23km過ぎの時点で、井上にも大きく遅れていく。

30kmで井上との12秒差を追いつくことは難しいと思われた。

だが、井上のペースがそこから落ちていくと同時に、ここまで周りに合わさず自分のペースを信じて走っていた大迫の力は残り12kmでも十分残っていた。

そして32km過ぎ。ついに井上に並び、すぐに引き離す。

30kmまでの冷静な走りと、ここからの気迫のこもった走りが見事に実ったのだ。

ラップを見ると、この30kmから35kmまでを大迫は14分56秒で走っている。実はこれは優勝したレゲセより11秒も早い、全選手の中でも2位の記録である。

マラソンは「自分との対話」と言い、ケニア合宿では「一人で耐え、一人で走る」ことを学んだ。そのことが今回の日本記録にもつながっているだろう。

ゴールテープを切るときのガッツポーズ、雄叫び。厳しく地道な練習と、自分を信じて走りきった姿を、誰もが賞賛するだろう。

…いや、ランナーだからこそ分かる思い、というものもある。

彼らの姿を思い浮かべながら、今日も外に出よう。

そして「自分との対話」を続けていこう。

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